
オスカー・ワイルドより
街を見下ろす高い円柱の上に、幸福の王子の像が立っていました。
全身は薄い純金の箔で覆われ、両の目には二つの澄んだサファイアが嵌め込まれ、剣の柄には大きなルビーが深紅の光を放っていました。
街の人々はこの像をたいそう自慢にしていました。「風見鶏と同じくらい美しい」と市会議員のひとりが言い、芸術的だという評判を得ようとして付け加えました。「ただし、風見鶏ほど役には立たないがね」
「どうしてあの王子さまみたいになれないの」と、聞き分けのない子どもに母親は言いました。「幸福の王子は何かを欲しがって泣いたりしないのよ」
失意の男が美しい像を見上げてつぶやきました。「あの方のように幸福な人もいるのだな」
孤児院の子どもたちが出てきて見上げました。「まるで天使みたい」と言うと、教師が答えました。「天使を見たことがあるのですか」「ええ、夢の中で」——教師は眉をひそめました。子どもが夢を見ることを、好ましく思わなかったのです。
ある晩のこと、一羽の小さなつばめが街の上を飛んでいました。
仲間たちはとうに南へ旅立ったのに、このつばめは美しい葦のもとを離れがたく、ひと夏をまるごと過ごしてしまったのです。けれど秋風が吹くころ、葦は一向にどこかへ行こうとしませんでした。
「旅は好きかい」とつばめが訊ねると、葦は深くお辞儀をしました。つばめは怒りました。「きみには心がないんだ。僕はエジプトへ行くよ」
そうして飛び立ち、一日じゅう飛び続けて、夜になると街にたどり着きました。
「どこに泊まろうか」とつばめはあたりを見回しました。やがて高い円柱の上の像が目に入りました。「あそこにしよう。見晴らしがいい。新鮮な空気もたっぷりだ」
つばめは幸福の王子の両足のあいだに降り立ちました。
「金色のベッドルームだ」と静かにつぶやき、翼をたたんで眠ろうとしたとき——大きなしずくが頬に落ちてきました。
「おかしいな。雲ひとつないのに」
もうひとしずく落ちてきました。つばめは見上げました。

幸福の王子の目から涙がこぼれ、金色の頬を伝って流れ落ちていたのです。月の光の中で王子の顔はあまりに美しく、つばめは胸が一杯になりました。
「あなたはどなたですか」
「幸福の王子です」
「それなのに、なぜ泣いているのですか」
「私が生きていたころ」と王子は静かに語りはじめました。「心は人間の心でしたが、涙というものを知りませんでした。悲しみの立ち入ることのできない宮殿に暮らし、昼は庭で遊び、夜は広間で踊りました。宮殿の向こうに何があるかなど、考えたこともありませんでした。臣下たちは私を“幸福の王子”と呼びました。幸福というのが、そういうものであるならば。
「そうして私は死に、ここに高く据えられました。鉛の心臓を持つ身でありながら、泣かずにはいられないのです。この街のすべての醜さと惨めさが、ここから見えるのですから」
つばめは考え込みました。——この方は金ぴかだけれど、中身はそういうことか。
「遠くの方に」と王子は低い声で続けました。「小さな通りに面した一軒の家が見えます。窓が開いていて、やつれた顔の女が見えます。彼女は刺繍をしている——宮廷の侍女たちの衣装に花を縫いとめているのです。部屋の隅のベッドには、病気の男の子が横たわっている。熱を出して、オレンジが欲しいとせがんでいます。でも母親にはただの川の水しか与えてやれないのです」
「つばめよ、つばめよ、小さなつばめよ」と王子は言いました。「私の剣の柄からルビーを抜き取って、あの女のところへ届けてくれないか。私の足はこの台座に釘づけなのだ」
つばめはためらいました。「エジプトで仲間が待っているのです。ナイル川を上り、蓮の花のそばで眠るのです」
「つばめよ、つばめよ、小さなつばめよ」と王子は繰り返しました。「たった一晩でいい。私の使いになってくれないか。あの子はひどく渇いていて、母親はとても悲しそうなのだ」
つばめは王子のルビーをくちばしにくわえ、屋根を越え、街を渡って飛びました。

つばめは母親の指ぬきのそばにルビーをそっと置きました。それからベッドの上を静かに飛び回り、翼で少年の額をあおぎました。
「なんだかすずしいな」と男の子はつぶやきました。「きっとよくなるんだね」——そう言って、甘い眠りに落ちていきました。
つばめは王子のもとへ戻りました。「おかしなことですが」と言いました。「こんなに寒いのに、体が温かいのです」
「それは、いいことをしたからだよ」と王子は言いました。
つばめは考えはじめましたが、すぐに眠ってしまいました。考えごとをすると、いつも眠くなるたちだったのです。
明け方、つばめは旅立とうとしました。けれど王子は言いました。
「はるか向こうに、屋根裏部屋の若い男が見えます。書きかけの戯曲の前に突っ伏している。暖炉には火が絶え、空腹で目がくらんでいます」
「もう一晩だけ待ちましょう」とつばめは答えました。「またルビーを届けるのですか」
「もうルビーはありません。残っているのは目だけです。私の目はインドから来たサファイアで、千年前にはめ込まれたものです。片方を抜いて持っていってください。あの男がそれを売れば、食べ物と薪を買い、戯曲を仕上げることができるでしょう」
「王子さま」とつばめは泣きました。「そんなことはできません」
「つばめよ、つばめよ、小さなつばめよ。私の言うとおりにしておくれ」
つばめはサファイアを抜き取り、屋根裏部屋へ運びました。
若い男が両手に顔を埋めていたので、翼の音は聞こえませんでした。ふと顔を上げたとき、すみれの花のそばに美しい宝石が置かれていました。
「認められはじめたのだ」と男は微笑みました。「きっとどこかの崇拝者が贈ってくれたのだろう。これで戯曲を書き上げられる」
翌日、つばめは港へ飛んでいきました。大きな船を眺めながら「エジプトへ行くぞ!」と叫びましたが、誰も聞いていませんでした。月が昇ると、つばめは王子のもとへ戻りました。
「お別れを言いに来ました」
「つばめよ、もう一晩だけ」
「広場のマッチ売りの少女が見えます。マッチを溝に落として、ぜんぶ駄目にしてしまった。お金を持ち帰らなければ父親に叩かれます。靴も靴下もなく、小さな頭には何もかぶっていない。もう片方の目をあの子に」
「王子さま、あなたは盲になってしまいます」
「つばめよ、つばめよ、小さなつばめよ。私の言うとおりにしておくれ」
つばめは王子のもう片方のサファイアを抜き取りました。少女のてのひらに滑り込ませると、「なんてきれいなガラスだろう!」と少女は笑い、歌いながら家へ駆けていきました。
王子は、もう何も見えなくなりました。
つばめは盲いた王子の足もとに降り立ちました。
「エジプトへは行きません」とつばめは言いました。「ずっとあなたのそばにいます」
「いや、つばめよ。おまえはエジプトへ行かなくてはならない」
「ずっとあなたのそばにいます」つばめはそう言って、王子の足もとで眠りました。
次の日、つばめは一日じゅう王子の肩に止まって、遠い国のことを語りました。赤い朱鷺がナイルのほとりに並んで立つこと。琥珀色の目をしたライオンが水を飲みにくること。
「つばめよ」と王子は言いました。「おまえが話してくれるのは不思議なことばかりだが、いちばん不思議なのは人間の苦しみだ。街の中を飛んで、見てきたことを教えておくれ」
つばめは街の上を飛びました。
裕福な者たちが美しい邸宅で宴を楽しむかたわら、門の前には乞食が座っていました。暗い路地を抜けると、飢えた子どもたちが橋の下で身を寄せ合い、雨を避けようとしていました。
「おなかがすいたよ」とふたりの子は言い合いました。「ここはだめだ、出ていけ」と夜回りの男が叫び、ふたりは雨の中へ歩いていきました。
つばめは王子に報告しました。王子は言いました。「私の体から金箔を剥がしてください。一枚ずつ、貧しい人たちに配ってください」
つばめは金箔を一枚、また一枚と剥がしていきました。王子の姿はだんだんとくすんでいきました。けれど、子どもたちの頬には薔薇色が戻り、通りには笑い声が聞こえはじめました。

やがて冬が来ました。
雪が降りました。霜が降りました。通りにはつららが銀の短剣のようにぶら下がりました。
つばめはどんどん寒くなりましたが、王子のそばを離れようとはしませんでした。パン屋の店先でパンくずを拾い、翼をばたばたさせて暖を取りました。
けれど、自分が長くはもたないことを知っていました。王子に別れを告げる力だけは残しておこう、と思いました。
「王子さま、さようなら」とつばめは言いました。
「エジプトへ行くのかい。ずいぶん長くいてくれたね。さようなら、小さなつばめよ」
「エジプトではありません」とつばめは答えました。「死の家へ行くのです。死は眠りの兄弟でしょう?」
つばめは王子の唇にくちづけをしました。
そして王子の足もとに落ちて、死にました。
そのとき、像の内部で何かが割れる奇妙な音がしました。鉛の心臓が、まっぷたつに裂けたのです。確かに、ひどい寒さでした。
翌朝、市長が市会議員たちと通りかかりました。円柱を見上げて言いました。「なんとみすぼらしい。幸福の王子がこんなにくたびれて見えるとは」
「ルビーは落ち、目は抜け、金箔も剥がれている。乞食同然だ」と市会議員たちは口々に言いました。「乞食同然ならば、立っている資格はない」
像は引き倒され、溶鉱炉に送られました。

けれど、鉛の心臓だけは溶けませんでした。
炉の中でどんなに火を焚いても、あの割れた心臓は形を変えなかったのです。鋳物師はそれをつまみ上げ、塵捨て場に投げ捨てました。一羽の死んだつばめの横に、心臓は転がりました。
「この街でもっとも尊いものを二つ持ってまいれ」と、神が天使に言いました。
天使は鉛の心臓と、死んだ小鳥を持ち帰りました。
「おまえの選びは正しい」と神は言いました。「この小さな鳥は永遠に私の楽園で歌い、幸福の王子は永遠に私の黄金の都で私を讃えるであろう」
おしまい
——物語の奥にあるもの
ワイルドは「幸福」という言葉に二重の皮肉を込めました。宮殿にいた王子は幸福と呼ばれていたけれど、壁の外を何も知らなかった。像になって初めて街を見渡し、涙を流すようになった——つまり、不幸になってはじめて、ほんとうの心を持ったのです。すべてを与え尽くし、自らを壊すことでしか到達できない幸福がある。この逆説が、物語の背骨です。
注目すべきは、つばめの選択です。王子の頼みは最初「たった一晩」でした。つばめは義務で残ったのではありません。ルビーを運んだ夜に感じた「不思議な温かさ」——善行の歓びが、彼を引き留めました。やがて王子が盲いたとき、つばめはエジプトを捨てました。それは使命でも犠牲でもなく、ただ傍にいたいという、自由に選び取られた愛でした。
物語の最後、神は天使に「もっとも尊いもの」を選ばせます。天使が持ち帰ったのは、市民が投げ捨てた鉛の心臓と、塵捨て場の小鳥の亡骸でした。金箔もサファイアもルビーも、美しかったものはすべて失われた後に、失われないものだけが残ったのです。美は朽ちても愛は残る——ワイルドは唯美主義者でありながら、美そのものではなく、美を手放す行為にこそ永遠を見出しました。