眠る前の小さなお話し
知っている物語を、大人の夜にもう一度。
グリム童話、アンデルセン、宮沢賢治など全51話。
穏やかな夜に
小さすぎる体で、大きすぎる世界を渡り歩いた少女——誰かの「ちょうどいい」に収まることを、愛と呼べるのだろうか。

吹き飛ばされる家と、吹き飛ばされない覚悟の物語。

枯木に降りかけた灰が桜になった朝、やさしさは何度でも形を変えて咲くと知った。

砂漠に不時着した飛行士の前に現れた、小さな王子。彼の星には、一輪のバラが咲いていた。

「大切なものは目に見えない」——キツネが教えてくれた秘密と、王子さまの最後の旅。

大きな葛籠と小さな葛籠——どちらを選ぶかに、その人のすべてが映る。

右の{頬|ほお}の瘤を忘れて踊った夜、鬼たちは歓び、老人は身軽になった。
美しい悲しみに浸る

声を差し出してまで愛を求めた少女は、最後に何を手にしたのか——

大晦日の夜、少女が擦ったマッチの炎が照らしたのは、世界のやさしさではなかった。

すべてを与え尽くした先に残ったのは、鉛の心臓と、一羽の亡骸だった。

みにくいと蔑まれた雛が最後に映した水面は、自分を知らなかった頃の涙で満ちていた。

月の光に呼ばれた少女は、どこにも属さないまま、永遠の別れを置き去りにした。

届かなかった償い。小さな狐が静かに差し出し続けた愛は、銃声の中でようやく届いた。

すべてを差し出した友情と、二度と開かない扉。あなたは最後に、誰の涙を思いますか。

{覗|のぞ}いてはならぬと言われた機織り部屋の向こうに、羽を抜く音がしていた。

海の底で夢のように過ごした時間は、地上では取り返しのつかない歳月に変わっていた。

天の川を走る汽車に乗ったふたりの少年。その切符は、どこまでも行ける切符だった。

醜いと蔑まれた夜鷹は、空の果てまで飛んだ。そこで燃え続ける青い星になった。
ワクワクと勇気の物語

甘い匂いの先にあったのは、救いか、それとも——

凍りついた少年の心を溶かしたのは、魔法ではなく、ひとりの少女の涙だった。

「本当の子ども」になりたかった木の人形は、嘘をつくたびに鼻が伸びた。けれど本当の自分を削り取った先に待っていたのは、果たして救いだったのか。

少年は空の上から黄金を盗んだ。けれど本当に奪われたのは、誰の何だったのか。

桃の中から生まれた子が、三匹の仲間とともに鬼の島へ渡った——それは、ただの冒険譚ではなかった。

灰色のカンザスから飛ばされた少女は、色彩の国で「帰る力」をずっと足元に持っていた。

身の丈三センチの少年が、針の刀ひとつで鬼に立ち向かう——小さき者の、途方もない勇気の物語。

足柄山の深い森で獣たちと育った黄金の子——その怪力の奥に眠る、母と子の別離の物語。

大人にならない少年と、ネバーランドへ飛んだ夜。でも朝は必ず来る。
背筋がぞくりとする夜に

森の奥で少女を待つものは、おおかみか、それとも——

鏡よ鏡——美しさを問い続けた女の、静かな狂気の物語

開けてはならぬ扉の向こうに、好奇心が見つけたものは——愛よりも深い、血の記憶。

一度履いたら止まらない。少女が踊り続けた赤い靴は、欲望と罰の物語だった。

一本の蜘蛛の糸に託された慈悲と、それを断ち切った一言の我執の物語。

吹雪の夜に交わした約束。破られた沈黙の先に、愛は残っていたのだろうか。

盲目の琵琶法師が奏でる鎮魂の調べは、あまりに美しすぎたがゆえに、死者たちの執着を呼び覚ました。

善良な紳士の中に棲んでいたもう一人の自分。鍵を開けたのは薬か、それとも——欲望か。
心が変わる瞬間

灰にまみれた少女が手にしたのは、魔法ではなく——静かな矜持だった

百年の眠りの果てに目覚めた姫が見たものは、救いだったのか、それとも——

塔の上から降ろされた黄金の髪は、鎖だったのか、それとも——

醜さの奥に隠された真実を、愛だけが見つけることができた——

沈黙だけが兄たちを救える。少女は唇を閉じ、指を灼きながらイラクサを編み続けた。

友の命を賭けて走る。信実と友情の物語——だが、太宰は本当にそれだけを書いたのか。

地下に響く天使の歌声。仮面の下に隠されていたのは、醜さではなく——孤独だった。

ふたつの家の憎しみの間に咲いた恋は、五日で燃え尽きた。だが、その灰が街を変えた。
くすりと笑える皮肉

真実はいつも、いちばん小さな声で語られる——権力と虚栄が織り上げた、見えない布の物語。

年老いて用済みにされた四匹が目指した街に、彼らはついに辿り着かなかった。

約束は守られず、嫌悪は壁に叩きつけられ——それでも魔法は解けた。

嘘と機転で世界を塗り替えた一匹の猫——知恵とはったりが、運命を発明する物語。

白うさぎを追いかけた少女が落ちた穴の先には、言葉の意味が溶けてゆく世界があった。

お茶会の席で時間は止まり、法廷ではハートのジャックの運命が——そしてアリスは目を覚ます。

山奥のレストランの扉には、やけに注文が多かった。だが、料理されるのは——

小さな蟹が握っていたおにぎりひとつから、復讐と正義の物語が動き出す。