ジャックと豆の木の表紙

ジャックと豆の木

イギリス民話より

むかしむかし、あるところに、ジャックという少年がいました。

父親はとうに亡く、年老いた母親とふたり、傾きかけた小さな家に暮らしていました。畑は痩せ、納屋は空っぽで、残った財産といえば一頭の牝牛だけ。その牛もとうに乳を出さなくなっていました。

ある朝、母親が言いました。

「ジャック、この牛を街へ連れて行って売っておくれ。もうこの子にやる飼葉もないのだから」

街へ向かう道の途中で、ジャックは奇妙な老人に出会いました。

老人はジャックの牛をじっと見つめ、にやりと笑うとポケットから何かを取り出しました。掌の上に、五つの豆がありました。乾いた、色褪せた、何の変哲もない豆です。

「この豆と牛を交換しないかね。ただの豆ではない——魔法の豆だ。地に蒔けば一晩で天まで届く」

ジャックは一瞬も迷いませんでした。牛の手綱を老人に渡し、豆を握りしめて家へ駆け戻りました。

母親の顔がみるみる蒼白になりました。

「豆だって? たった一頭の牛を——豆五つと引き換えにしたというのかい!」

母親は泣きながらジャックの手から豆を叩き落とし、窓の外へ投げ捨てました。その夜、ふたりは何も食べずに眠りました。

ジャックは暗い天井を見つめながら、自分が何を仕出かしたのか、うっすらと理解していました。

朝もやの中、天を貫いてそびえ立つ巨大な豆の木

翌朝、目を覚ましたジャックは息を呑みました。

窓の外が暗いのです。太陽が昇っていないのではありません——窓を覆い尽くすほどの巨大な蔓が、光を遮っていたのです。

外へ飛び出すと、家の脇から天を貫くようにして、途方もなく太い豆の木がそびえていました。幹は捩れながら空へ伸び、先端は雲の中に消えています。葉は朝露に濡れて、まるで無数の緑の手が天を掴もうとしているかのようでした。

ジャックは登りはじめました。

枝から枝へ、葉から葉へ。空気はしだいに薄く冷たくなり、下を見れば家は豆粒ほどになっていました。やがて雲を突き抜けると、そこには見たこともない世界が広がっていました。

白い雲の大地が果てしなく続き、その先に——巨大な城がありました。人間の城を十も重ねたような、途方もない大きさの石の城です。

ジャックは雲の道を歩き、城の門をくぐりました。

城の台所で、巨人の妻がかまどの前に立っていました。ジャックから見れば家ほどもある女が、ジャックを見下ろして言いました。

「おまえ、こんなところへ来てはいけないよ。うちの人が帰ってきたら食べられてしまう」

けれどジャックは頼み込み、パンの欠片とスープを恵んでもらいました。温かいものが胃に落ちたとき——

地が揺れました。

ずしん、ずしん、ずしん。

巨人が帰ってきたのです。

巨人の城の薄暗い広間で、{竈|かまど}の陰に隠れるジャック

巨人は食卓につくなり、鼻をひくひくさせました。

「フィー・ファイ・フォー・ファム——イギリス人の子どもの匂いがするぞ。生きていようが死んでいようが、そいつの骨を挽いてパンにしてやる」

妻は「気のせいですよ」ととぼけ、ジャックはかまどの陰に身を潜めました。

巨人は山のような肉を平らげ、食後に金貨の詰まった袋を持ってこさせました。一枚、二枚と数えるうち、やがて鼾をかきはじめました。

ジャックは音を立てずかまどから這い出すと、金貨の袋を掴み、全速力で走りました。雲の道を駆け抜け、豆の木にしがみつき、滑るように降りていきました。

母親に金貨を見せると、母親は目を丸くしました。

しばらくのあいだ、ふたりは不自由なく暮らしました。けれど金貨はやがて底をつきます。ジャックはふたたび豆の木を見上げました。

一度登れたのだから、もう一度登れる。そう思いました。

二度目の訪問で、ジャックは金の卵を産む鶏を盗みました。

巨人の妻は前回と同じように匿ってくれました。巨人は前回と同じように「フィー・ファイ・フォー・ファム」と唸り、前回と同じように眠りに落ちました。

ジャックは金の鶏を抱えて逃げました。鶏は毎朝、純金の卵を産みました。もう貧しさにおびえる必要はないはずでした。

けれどジャックは三度目の豆の木を登りました。金貨でも金の卵でもなく——今度は、何を求めて登ったのでしょう。

三度目の城で、ジャックが目にしたのは黄金の竪琴でした。

巨人が「歌え」と命じると、竪琴はひとりでに弦を爪弾き、この世のものとは思えぬ旋律を奏ではじめました。その音色は風のように柔らかく、月の光のように清しく、聴く者の瞼をそっと閉じさせるものでした。

巨人が眠りに落ちるのを待って、ジャックは竪琴に手を伸ばしました。

黄金の竪琴を抱えて逃げるジャック、背後で目覚める巨人

竪琴に触れた刹那、竪琴が叫びました。

「ご主人さま! ご主人さま!」

巨人が目を覚ましました。食卓が軋み、城が震えました。ジャックは竪琴を抱えたまま走り出しました。背後で地鳴りのような足音が追ってきます。

雲の道を駆け、豆の木に飛びつきました。竪琴はなおも叫び続けています——「ご主人さま! ご主人さま!」

巨人もまた、豆の木を降りはじめました。巨大な手が蔓を掴み、大地が近づくたびに木全体が軋みました。

地面に降り立つなり、ジャックは叫びました。

「お母さん、斧を! 斧を持ってきて!」

母親が駆け寄り、斧を手渡しました。ジャックは渾身の力で豆の木の根元を打ちました。一撃、二撃——木の繊維が裂け、樹液が飛沫のように散りました。

頭上で巨人の咆哮が聞こえました。空が暗くなるほどの巨体が、もうすぐそこまで降りてきています。

斧を振り下ろすジャック、傾く豆の木、落ちてくる巨人の影

三撃目で、豆の木は轟音とともに傾きました。

巨人が手を伸ばしました。その目には——怒りだけでなく、驚きと、かすかな恐怖が浮かんでいたかもしれません。自分の家で食事をし、自分の宝を数え、自分の竪琴に歌わせていただけの巨躯が、空から落ちてきました。

大地が震えました。

巨人は二度と動きませんでした。

豆の木は倒れ、空への道は永遠に閉ざされました。

ジャックと母親は金の鶏と黄金の竪琴とともに暮らし、二度と貧しさに苦しむことはありませんでした。竪琴はやがてジャックの手にも馴染み、美しい歌を歌うようになったと——そう語り継がれています。

けれどそれが本当かどうかは、竪琴だけが知っています。

おしまい

——物語の奥にあるもの

この物語を冷静に読み返すと、奇妙な事実に気づきます。巨人は何も悪いことをしていないのです。自分の城で食事をし、自分の金貨を数え、自分の鶏を飼い、自分の竪琴に歌わせていた。「フィー・ファイ・フォー・ファム」という咆哮は、家に忍び込んだ侵入者への当然の反応にすぎません。不法侵入し、三度にわたって財産を盗み、最後には持ち主を殺害する——ジャックがやったことを現代の法で裁けば、窃盗と殺人です。

一八〇七年にベンジャミン・タバートが出版した版では、この居心地の悪さを解消するために後付けの正当化が加えられました。巨人はかつてジャックの父親から財産を奪い、父を殺した悪人だったという設定です。しかし、それ以前の口承にそんな前史はありません。ジャックはただの泥棒であり、物語はそれを「めでたしめでたし」で祝福します。

豆の木は「身分を超えた上昇」の象徴として読まれてきました。貧しい少年が雲の上の富を手に入れる——それは社会的流動性の寓話です。しかしその上昇の手段は、労働でも知恵でもなく、無謀さと暴力です。最も不穏なのは、竪琴が「ご主人さま」と叫ぶ場面でしょう。盗まれた物そのものが抗議の声を上げている。にもかかわらず、物語はジャックの側に立ち続けます。

私たちはこの物語を子どもに読み聞かせながら、本当は何を教えているのでしょうか。「大胆であれ」でしょうか。それとも「奪っても、勝てば正義になる」でしょうか。