
アンデルセン童話より
むかし、悪魔が一枚の鏡をこしらえました。
それは恐ろしい鏡でした。美しいものを映せば醜くゆがみ、善いものを映せば滑稽にねじれ、やさしい心は弱さに、誠実さは愚鈍に見えるのです。
悪魔の弟子たちは喜んで鏡を担ぎ上げ、天まで昇ろうとしました。神さまや天使たちの姿さえも嘲笑ってやろうというのです。ところが高く昇るほど鏡は震え——ついに手を滑らせて、地上へ落としてしまいました。

鏡は砕けて、何億という破片になりました。
砂粒よりも小さな欠片が風に乗って世界中に散らばり、人の目に入れば、あらゆるものが醜く見えるようになりました。心臓に刺されば、その心は氷の塊のように冷たくなりました。
悪魔はそれを見て、腹を抱えて笑いました。しかし鏡の破片は今もなお空を漂い、風に運ばれて、誰かの胸に降りてくるかもしれないのです。
ある大きな街に、カイとゲルダというふたりの子どもが暮らしていました。
隣り合う屋根裏部屋に住み、窓と窓のあいだに架けた木箱には赤い薔薇が咲いて、夏になるとふたりは薔薇の下で絵本を読みました。おばあさんが言いました——「薔薇のように美しい心を持ちなさい」と。
ふたりはよく笑い、よく遊び、互いのそばにいることが息をするのと同じくらい自然なことでした。
ある冬の日のことでした。
カイが窓の外を眺めていると、ひとひらの雪が目に飛び込んできました。ただの雪ではありません——悪魔の鏡の破片です。一粒が目に入り、もう一粒が、胸の奥深くに突き刺さりました。
カイは一瞬だけ痛みを感じ、それからすべてが変わりました。
カイは薔薇を見て言いました。
「虫に食われてる。みっともない花だ」
おばあさんが聖書を読み聞かせれば、揚げ足を取って笑いました。通りすがりの人々の歩き方や話し方をいちいち真似て、からかいました。
ゲルダが話しかけても、冷たい目で見返すだけです。
「子どもっぽい遊びはもうたくさんだ」
以前と同じ顔、同じ声。けれどその瞳は、もう何も温かいものを映さなくなっていました。

その冬、カイはひとりで広場へ橇遊びに出かけました。
大きな白い橇が広場に滑り込んできたとき、カイはふざけて自分の小さな橇を結びつけました。白い橇はみるみる速くなり、街の外へ飛び出していきます。
怖くなって綱をほどこうとしましたが、指が悴んで動きません。雪は吹きつけ、橇は風よりも速く走り——やがて止まりました。
毛皮に身を包んだ女が立ち上がりました。背が高く、透き通るように白い肌。雪の女王でした。
雪の女王はカイを毛皮の中に抱き寄せ、額に接吻しました。
その唇は氷よりも冷たく、冷気は心臓まで届きました。一瞬、死ぬかと思いました。けれど次の瞬間にはもう平気でした。寒さを感じなくなったのです。
ゲルダのことも、おばあさんのことも、薔薇のことも——すべてが遠い靄のかなたに消えていきました。
「もう寒くないでしょう」
女王は微笑み、橇は再び走り出しました。吹雪を越え、黒い雲を越え、月の光の上を滑るようにして、はるか北の果てへ。
カイが帰ってこない。
ゲルダは泣きました。冬じゅう泣いて、春が来ても泣きました。街の人々は言いました——カイは川に落ちて死んだのだと。
けれどゲルダは信じませんでした。
春の朝、ゲルダは新しい赤い靴を履いて川辺へ行き、水面にむかって言いました。
「カイを連れていったの? この靴をあげるから、返してください」
川は何も答えません。ゲルダは靴を川に投げ入れましたが、波が靴を岸へ押し戻しました。まるで川が——受け取る理由がないとでも言うように。
ゲルダは舟に乗り、流れに身を任せました。
やがてたどり着いたのは、花に囲まれた不思議な庭。そこに住む老女はゲルダに優しくし、櫛で髪を梳かすたびに、カイの記憶を少しずつ薄れさせました。
花々に囲まれた穏やかな日々。ゲルダはほとんど忘れかけていました——自分が何のために旅に出たのかを。
けれどある日、窓辺に飾られた帽子に描かれた薔薇の絵を見て、すべてを思い出しました。カイ。赤い薔薇。窓辺のふたり。
「わたし、なんてぐずぐずしていたんでしょう」
庭を飛び出したゲルダは、もう裸足でした。秋が来ていました。花々が枯れ、冷たい風が吹いていました。
ゲルダはひたすら歩きました。
やさしい王女に出会い、暖かい宮殿で休み、温かい衣を与えられました。けれど「ここにいなさい」という言葉に首を振り、金の馬車で送り出されました。
その馬車を山賊が襲い、ゲルダは捕らわれました。山賊の娘は気まぐれで荒っぽい少女でしたが、ゲルダの話を聞いて言いました。
「そんなに会いたいなら、トナカイを貸してあげる。北へ行きな」
トナカイはラップランドの雪原を駆けました。
オーロラが空を渡り、星が凍った光を落とす北の果て。フィンランドの賢い女のもとを訪ねたトナカイは、ゲルダに特別な力を授けてほしいと頼みました。
賢い女は首を振りました。
「わたしが与えられる力など、あの子がすでに持っているものには及びません。あの子の力は、裸足で世界の果てまで歩いてきたその心の中にあるのです。それを本人が知らないからこそ、力なのです」
トナカイはゲルダを雪の女王の宮殿の手前で降ろし、それ以上は進めませんでした。
ゲルダはひとりで歩き出しました。吹雪が襲いかかり、雪の兵隊たちが行く手を阻みます。凍てつく風は刃のようで、指の感覚はとうになくなっていました。
ゲルダは祈りました。吐く息が白い霧となり、やがてそれは光を帯びた天使の形をとって、雪の兵隊たちを退けていきました。
ゲルダは宮殿の門をくぐりました。
宮殿は広大で、空虚でした。
壁も床も天井も、すべてが吹き付ける雪でできていました。何百もの広間がオーロラの光に照らされ、青白く輝いていました。冷たく、広く、どこまでも空っぽでした。
喜びがない。悲しみもない。怒りさえもない。感情というものが存在できない場所——それが雪の女王の王国でした。
その最も奥の、凍った湖のほとりに、カイはいました。

カイは氷の欠片を並べていました。
唇は青く、肌は灰色がかり、まるで自分自身が氷の一部になったかのようでした。凍った湖の上に座り、氷の破片を組み合わせて一つの言葉を綴ろうとしています。
「永遠」——その二文字を完成させれば、雪の女王が自由にしてやると約束したのです。世界じゅうの靴と、新しい橇をくれるとも。
けれどどうしても、その文字は完成しませんでした。
カイはゲルダが来たことに気づきませんでした。

「カイ!」
ゲルダは叫び、走り寄り、カイの首に抱きつきました。
カイはぴくりとも動きません。冷たい目で、知らないものを見るようにゲルダを見つめるだけです。
ゲルダは泣きました。温かい涙がカイの胸に落ちました。
涙は肌を通り抜け、胸の奥まで沁み込み——そこに刺さっていた鏡の破片を溶かしました。カイの心臓が、ふいに脈打ちました。
カイはゲルダの顔を見ました。それからゲルダの名を呼び——自分も泣きました。激しく、子どものように泣きました。その涙が目に刺さっていた破片を洗い流しました。
「ゲルダ、きみはどこにいたの。ぼくはどこにいたんだろう」
カイはあたりを見回し、身震いしました。なんと冷たく、なんと広い場所でしょう。
ゲルダはカイの手を握り、笑いました。涙を流しながら笑いました。その喜びがあまりにも深かったので、足元の氷の欠片までもが踊り出し——ひとりでに組み上がって「永遠」の二文字を綴りました。
カイは自由になりました。
ふたりは手を取り合って宮殿を出ました。門を出ると吹雪は止み、太陽が顔を出していました。
ふたりは歩いて帰りました。長い長い道のりを、来たときと同じように。
山賊の娘はゲルダを見て笑い、トナカイは嬉しそうに首を振りました。王女は再び迎え入れてくれ、温かいスープをふるまいました。
やがて、見覚えのある街の屋根が見えてきました。屋根裏部屋の窓辺の木箱に、赤い薔薇が咲いています。
おばあさんが椅子に座って待っていました。ふたりは膝をついてその手を取りました。おばあさんは聖書を読みました。
「幼子のようにならなければ、天の国に入ることはできません」
ふたりはそこに座っていました。大人になった姿で。けれど心は——心だけは、子どものままでした。
おしまい
——物語の奥にあるもの
悪魔の鏡は、世界を歪めて映す装置です。美しいものを醜く、善いものを愚かに見せる。しかし考えてみれば、私たちは日々、無数の「歪んだ鏡」を通して世界を見ています。皮肉、批評、冷笑——それらは知性の証だと思い込んでいますが、本当にそうでしょうか。カイの目に刺さった破片は、大人が「客観性」や「合理性」と呼ぶものの寓話ではないでしょうか。すべてを分析し、すべてを疑い、何にも心を動かされなくなった人間。それは「賢い大人」の姿に、あまりにもよく似ています。
雪の女王の宮殿で、カイは氷の欠片を並べて「永遠」という言葉を綴ろうとします。理性だけで永遠を理解しようとする行為——それは、論理で愛を証明しようとすることに似て、根本的に不可能な試みです。氷は氷を知ることしかできません。凍った心が「永遠」を理解できないのは、永遠とは感じるものであって、組み立てるものではないからです。
ゲルダには魔法も武器も知恵もありませんでした。ただ歩き続け、泣き続け、信じ続けた。賢い女が言ったように、その力は「本人が知らないからこそ力」なのです。自分の善意を自覚した瞬間、それは戦略になり、計算になり、氷の欠片と変わらなくなる。ゲルダの温かい涙が鏡の破片を溶かしたのは、涙が合理的な手段ではなかったからです。アンデルセンはこの物語で、冷たい知性と温かい愚かさのあいだに、静かな問いを置きました。——あなたの目に、鏡の破片は刺さっていませんか。