
アンデルセン童話より
深い深い海の底に、人魚の王の城がありました。
珊瑚の柱に琥珀の窓。屋根は潮の流れに合わせて開いたり閉じたりする貝殻でできていて、どの貝の中にも真珠が光っていました。
そのひとつでも人間の女王の冠に飾れば、どれほど誇らしいことでしょう。
王には六人の娘がおりましたが、末の姫がいちばん美しく、その肌は薔薇の花びらのように透き通り、瞳は海の底のように深い青色をしていました。
けれどもほかの姫たちと同じように、足はなく、体は魚の尾に続いていたのです。
末の姫は静かな子でした。姉たちが難破船から手に入れた飾り物で遊ぶ中、姫はただ一つ、海の上に沈んだ大理石の少年像を庭に置いて、その傍らに花を植えるばかりでした。
人魚の国では、十五歳になると海の上に昇ることが許されました。
姉たちは一人ずつ順番にその日を迎え、戻ってくるたびに人間の世界の話を聞かせてくれました。町の灯り、教会の鐘、雪の降る港。
末の姫は誰よりも憧れながら、誰よりも長く待たねばなりませんでした。待つ夜ごとに、海の上への想いは静かに、けれど確実に深くなっていきました。

ようやく十五の誕生日が来ました。
姫が海面に顔を出すと、夕日が水平線を黄金と紫に染め上げていました。すぐ近くに大きな船が浮かび、音楽が聞こえ、花火が夜空に花を咲かせています。
甲板に立つ若い王子の姿が見えました。黒い髪、澄んだ目。彼が笑うたびに、姫の心臓が波のように揺れました。
この夜のことを、姫は生涯忘れることができませんでした。
やがて嵐が来ました。
船は木の葉のように揺れ、マストが折れ、暗い波が甲板を呑みました。王子の体が海に沈んでゆくのを、姫は見ました。
——人間は海の中では生きられない。
そう知っていたから、姫は迷いなく波間に飛び込みました。王子の頭を抱え、潮に逆らい、夜明けまで泳ぎ続けました。
朝が来て、嵐は過ぎ去りました。
姫は王子を白い砂浜に横たえ、少し離れた岩陰に隠れて見守りました。やがて寺院から若い娘が駆け降りてきて、王子を見つけ、人を呼びました。
王子は目を開き、自分を助けてくれたのはこの娘だと信じて微笑みました。
姫のことは知らないまま。
姫は海に潜り、これまで感じたことのない痛みを胸に抱えて、父の城に帰りました。
それから姫は何度も何度も、あの浜辺の近くまで泳いでいきました。王子が庭に出るのを遠くから見つめ、人間の世界への想いはますます募りました。
ある晩、姫は姉たちに尋ねました。
「人間は、死なないの。」
「死ぬわ」と姉は答えました。「けれど不滅の魂を持っている。私たちは三百年生きても、死ねば泡になって消えるだけ。」
姫は黙って、暗い海の底を見つめました。

姫は海の魔女のもとを訪れました。
骨と水母で編まれた森を抜け、渦巻く泥の荒野を越えて。魔女は姫を見て笑いました。
「わかっているよ、おまえの望みは。愚かなことだけれど、叶えてあげよう。尾を人間の足に変える薬を作ってあげる。」
「ただし歩くたびに、鋭い刃の上を踏むような痛みが走る。それでもいいのかい。」
「そして代償は、おまえの声だ。おまえの持つ一番美しいものを寄越しな。」
「声を取られたら、何が残るのですか。」
「美しい姿と、澄んだ瞳と、物言わぬ愛情さ。それで十分だろう。」
魔女は続けました。
「もしも王子がおまえでない別の女を妻に選んだなら、その翌朝、おまえの心臓は張り裂け、海の泡になるよ。」
姫は頷きました。声を差し出して。

夜明け前、姫は王子の城の大理石の階段に横たわり、薬を飲みました。
体を引き裂かれるような痛みが走り、意識が遠のきました。
目を覚ますと、王子がこちらを覗き込んでいました。
「きみは誰。どこから来たの。」
姫は答えようとしましたが、声は出ません。代わりに深い青色の瞳で王子を見つめることしかできませんでした。
王子は姫の手を取り、城の中へ導きました。
一歩ごとに、刃を踏むような痛みが足を貫きました。
姫は絹の衣を与えられ、王子のそばで暮らすようになりました。
王子は姫を愛しました。けれどそれは、妹や愛らしい子どもに向ける愛でした。妻にしようとは思いもしませんでした。
「僕の心は、嵐の夜に命を救ってくれたあの寺院の娘のものなんだ」と王子は姫に語りました。「あの人にしか会えなくて——きみは少し、あの人に似ているね。」
姫はただ微笑むほかありませんでした。あなたを救ったのは私です、とは永遠に言えないまま。
ある日、王子は隣国の姫と会うために船を出しました。
そしてその姫こそ、あの朝浜辺で王子を見つけた寺院の娘だったのです。
「きみだったのか」と王子は歓喜の声を上げました。「僕の命を救ってくれたのは、きみだったんだ。」
婚礼が決まりました。
人魚の姫は、その夜、船の欄干にもたれて暗い海を見つめました。夜明けが来れば、自分は泡になって消える。それがわかっていました。
婚礼の夜、姫は王子と花嫁のために踊りました。
かつてないほど美しく、かつてないほど痛みに満ちた踊りでした。もう二度とこの世界を見ることはないのだと、姫にはわかっていました。
深夜、波の中から姉たちが現れました。美しかった長い髪がすべて切り落とされていました。
「この短剣を魔女から買ったの。夜明け前に王子の胸を刺しなさい。その血があなたの足に触れれば、尾が戻り、海に帰れる。三百年を生きられるわ。」
姫は短剣を手に、王子の寝室に忍び入りました。
花嫁の頭は王子の胸の上にありました。王子は夢の中で花嫁の名を呼びました。
姫の手が震えました。
——この人を殺して、私は何になるのだろう。
長い静寂ののち、姫は短剣を遠い波間に投げました。刃が沈んだ場所から、赤い雫が海面に滲みました。
姫は最後にもう一度だけ王子を見つめ、霞んでゆく目で微笑み、船の縁から海に身を投げました。

体が泡に溶けてゆくはずでした。
けれど姫は消えませんでした。透き通った体が宙に浮かび、周囲に同じような存在が何百と漂っていました。
「あなたは空気の精になったのです」と声が聞こえました。「人魚には不滅の魂がないけれど、善い行いを重ねた者は、三百年のあいだ空をゆき、やがて魂を得るのです。」
朝日が海を金色に染めていました。姫は初めて涙を流しました。涙を流せる体は、もう持っていなかったけれど。
おしまい
——物語の奥にあるもの
アンデルセンが一八三六年にこの物語を書いたとき、最も愛した人エドヴァルド・コリンは別の女性と結婚しようとしていました。「あなたへの私の感情は、女のそれです」と手紙に記したアンデルセンにとって、人魚姫とは人間の世界に決して属せない者の物語——自分自身の寓話でした。声を差し出して人間の姿を得る代償は、一歩ごとに刃の上を歩くような苦痛。それは、本当の自分を隠して社会に「合格」しようとする者が支払い続ける、見えない痛みの比喩です。
物語の分岐点は、姉たちが髪と引き換えに渡してくれた短剣の場面です。王子の血が足にかかれば人魚に戻れる。けれど彼女は短剣を海に投げ捨て、自ら泡になることを選びます。これは受動的な死ではなく、能動的な倫理的選択です。愛する人を所有することと、愛する人の幸福を願うこと——そのふたつが両立しないとき、彼女は後者を選んだ。ディズニー版が消したのは、この選択の重さです。声は戻り、王子は振り向き、「頑張れば夢は叶う」という物語になった。けれどアンデルセンが書いたのは、夢が叶わなかったあとにも残る愛の話です。
アンデルセンは当初、結末を「泡になって消える」で終わらせるつもりでした。後から加えた「空気の精」は妥協に見えて、実はもうひとつの可能性を示しています。恋は叶わなかった。けれど、すべてを差し出した者が迎える結末は消滅ではなく、形を変えた存在の継続だった。声を失っても愛し続けることを選んだ者に、物語は三百年の風のなかで、もうひとつの魂を約束するのです。