
ジェームス・マシュー・バリー
子どもはみな、いつか大きくなります。
そのことを知るのは、ごく幼いころ——二歳のウェンディが庭で花を摘み、母のもとへ駆け寄って差し出したとき、ダーリング夫人は娘の頬に顔を寄せてこう呟きました。
「ああ、どうしてこのまま大きくならないでいてくれないの」
それが、すべてのはじまりでした。
ロンドン、ブルームズベリ。ダーリング家の子ども部屋には三つの寝台が並んでいました。
ウェンディ、ジョン、マイケル。そして乳母は——犬でした。
ニューファンドランド犬のナナは、子どもたちの咳の具合を聞き分け、夜中に布団を直し、朝になれば三人を学校まで送り届けます。ダーリング氏はときどき、ナナの前で居心地が悪くなりました。近所の人に「うちの子どもの乳母は犬でしてね」と説明するのは、なかなか骨が折れるのです。
けれど子どもたちにとって、あの子ども部屋はこの世でいちばん安全な場所でした。
——窓が、開くまでは。

ウェンディは夜ごと、同じ夢を見ていました。
窓のそばに少年が立っている。木の葉と蜘蛛の巣でできた服を着て、乳歯がそのまま残った口で笑う少年。彼のそばには、小さな光がちらちらと飛んでいます。
ある晩、夢ではありませんでした。
ナナが鎖につながれ、ダーリング夫妻が夜会に出かけた夜——窓が音もなく開き、風と一緒にその少年が滑り込んできたのです。
彼は自分の影を探していました。前に来たとき、窓が急に閉まって影が切り離されてしまったのだと。
少年は引き出しから影を見つけ出しましたが、足の裏にくっつけようとしても、石鹸でこすっても、影はぴたりと馴染みません。
苛立って泣き出したところを、ウェンディが目を覚まして見つけました。
「まあ、あなた泣いているの。お名前は?」
「ピーター・パン」
ウェンディは裁縫箱を取り出すと、少年の足に影を縫いつけてやりました。痛かったけれど、ピーターは歯を食いしばって我慢しました。
影がぴたりと戻ると、ピーターは部屋じゅうを飛び回り、まるで自分ひとりの手柄のように喜びました。ウェンディは少し傷つきましたが、何も言いませんでした。
——この少年はそういう子なのだ、と直感的にわかったからです。
ピーターのそばを飛ぶ小さな光は、妖精のティンカー・ベルでした。
手のひらに乗るほど小さく、鈴を振るような声で話し、ウェンディを見ると露骨にいやな顔をしました。妖精というのは体が小さすぎて、一度にひとつの感情しか入らないのです。今のティンカー・ベルには、嫉妬がぎゅうぎゅうに詰まっていました。
ピーターは言いました。
「ウェンディ、ぼくと一緒に来て。迷子の子どもたちにお話を聞かせてやってほしいんだ。ぼくたちは誰もお話を知らない。おかあさんがいないから」
そのひとことが、ウェンディの胸を貫きました。

「でも、わたし飛べないわ」
「簡単さ。愉快なことを考えるんだ——ひとつ、ふたつ、みっつ!」
ティンカー・ベルが妖精の粉をふりまくと、ウェンディの足がふわりと床を離れました。ジョンが目を覚まし、マイケルが目を覚まし、粉をかけられた三人は天井にぶつかりそうになりながら、窓から夜空へ飛び出しました。
ロンドンの屋根が足の下に流れ、ビッグ・ベンの時計盤が金色に光り、テムズ河が蛇のように蜿蜒と伸びていきます。
ピーターが星を指さしました。
「右から二番目の星をまっすぐ——朝までずっと」

どれくらい飛んだのか、わかりません。眠りかけては落ちそうになり、ピーターが笑いながら受け止めてくれました——けれど受け止め損ねることもありました。ピーターにとって、他人の命はどこか軽いものだったのです。
やがて、水平線に島影が浮かびました。
ネバーランド。
珊瑚礁の環に囲まれた島。鬱蒼と茂るジャングル、人魚の礁湖、インディアンの野営地、そして——海賊船。
子どもたちが夢に見たことのあるすべてが、そこにありました。なぜならネバーランドとは、子どもの想像が形になった場所だからです。
地下の家は、木の幹の中にありました。
迷子の子どもたちは六人。ピーターに拾われ、ネバーランドで暮らしています。全員が男の子で、赤ん坊のころに乳母車から落ちて、七日間誰にも見つけてもらえなかった子どもたち。
双子のツインズ。すこし鈍いスライトリー。勇敢なトゥートルズ。陽気なニブズ。泣き虫のカーリー。
ウェンディが来ると、彼らは飛び上がって喜びました。
「ウェンディ、ぼくたちのおかあさんになって!」
ウェンディは十三歳でした。おかあさんになるには幼すぎます。けれど——
「いいわ。やってみる」
その夜から、ウェンディは物語を語り、薬を飲ませ、寝間着のボタンをとめ、おやすみのキスをしました。
地下の家の暮らしは、夢のようでした。
朝は人魚の礁湖で泳ぎ、午後はインディアンと追いかけっこをし、夕方にはウェンディの作った夕飯を——それが空想の食事であっても——みんなで囲みます。ピーターが「今日はローストターキーだ」と言えば、テーブルの上には何もなくても子どもたちは口を動かし、おなかがいっぱいになるのでした。
けれどウェンディは、ときどき窓のない地下の天井を見上げました。
——おかあさんは今ごろ、窓を開けて待っているかしら。
その問いを口にすることは、ネバーランドではほとんど禁忌でした。ピーターは「おかあさん」という言葉を聞くと、わけもなく不機嫌になるのです。
この島には、もうひとりの住人がいました。
フック船長。
名門イートン校の出で、かつてはどこかの貴公子だったといわれる男。右手の代わりに鉄の鉤爪をつけ、漆黒の巻き毛と忘勿草のような青い目を持ち、部下を殺すときでさえ礼儀正しくお辞儀をする——そういう種類の悪党です。
右手を奪ったのは、ピーター・パンでした。切り落とされた手は海に落ち、一匹の鰐がそれを飲み込みました。その鰐はフックの肉の味が忘れられず、残りを求めて船のまわりをぐるぐると泳ぎ続けているのです。
幸いなことに、鰐はかつて時計も一緒に飲み込んでいました。
チクタク、チクタク、チクタク。
その音が聞こえるかぎり、フックには逃げる時間がありました。
ある夜、ウェンディは子どもたちにこんな話をしました。
「むかし、ロンドンに三人のきょうだいがいました。ある晩、空を飛んで遠い島へ行きました。けれどおかあさんのことを忘れたことは一度もありません。なぜなら——おかあさんはいつも窓を開けて待っていてくれるからです」
ピーターが口をはさみました。
「ウェンディ、嘘だよ」
声が低く、冷たくなっていました。
「ぼくもそう思って帰ったことがある。でも窓には鍵がかかっていた。寝台にはもう別の子どもが寝ていた。おかあさんは、ぼくのことを忘れたんだ」
部屋が静まりかえりました。迷子の子どもたちが泣き出しそうな顔をしています。
ウェンディは立ち上がりました。
「帰るわ。ジョン、マイケル——今すぐ帰りましょう」

迷子の子どもたちも叫びました。「ぼくたちも帰る!」
ピーターだけが動きませんでした。背を向けて、笛を吹くふりをしていました。
子どもたちが地上に出たとき、フック船長の海賊たちが待ち伏せしていました。ひとり残らず捕まり、縄で縛られ、海賊船ジョリー・ロジャー号へ連れ去られました。
フックは鉤爪でウェンディの顎を持ち上げ、静かに言いました。
「さあ、お嬢さん。おまえたちの選択肢は二つだ。海賊になるか、板の上を歩くか」
板の上を歩く——それは、目隠しをされて船べりの板を歩かされ、海に落ちることを意味していました。
地下の家で、ピーターは眠っていました。
ティンカー・ベルが必死に鈴の声で叫びます。フックが忍び込み、ピーターの薬に毒を入れたのです。ティンカー・ベルはピーターより先にその薬を飲み干しました。
光が弱くなっていきます。妖精の光が。
「ティンク、死んじゃだめだ」
ピーターは世界中の子どもたちに向かって叫びました。
「妖精を信じるなら、手を叩いて!」
どこか遠くで、かすかに——拍手が聞こえました。ひとつ、ふたつ。やがてそれは大きなうねりとなって、ティンカー・ベルの光をふたたび灯しました。
ピーターは海賊船に乗り込みました。
甲板の上で、フックとピーターは剣を交えました。フックは大人の体格と、イートン校仕込みの剣術で圧倒しようとしますが、ピーターは風のように身をかわし、笑いながら戦います。
フックは悟りました。この少年には、恐怖がない。死を恐れない者に、どうやって勝てというのか。
「不作法な小僧め。おまえはいったい何者だ」
「ぼくは若さだ。ぼくは喜びだ。ぼくは、たった今卵から出てきた小鳥だ!」
剣がフックの手を打ちました。フックはよろめき、船べりを越え——
海の中で、チクタクという音が近づいてきました。
フック船長は、時間に追いつかれたのです。

子どもたちを乗せた海賊船は、夜空を飛んでロンドンへ向かいました。
ダーリング家の子ども部屋の窓は、開いていました。
ダーリング夫人はあの夜からずっと、窓を閉めることができなかったのです。雨の夜も、風の夜も。子どもたちが帰ってきたとき、すぐに入れるように。
夫人は窓辺の椅子に座ったまま、うたた寝をしていました。その膝の上に子どもたちがそっと降り立ったとき——夫人は夢の続きだと思いました。
「おかあさん」
夢ではありませんでした。
迷子の子どもたちも、ダーリング家に引き取られることになりました。ダーリング氏は六人ぶんの養育費を帳簿につけながら少し青い顔をしていましたが、夫人に逆らうことはできませんでした。
ピーターだけが、窓の外に浮かんでいました。
ダーリング夫人は言いました。「ピーター、あなたも引き取りたいわ。大人になったらきっと——」
「大人になんかなりたくない」
ピーターの声は、怒っているのではなく——ただ、途方もなく遠い場所から響いてくるようでした。
「ぼくはずっと子どもでいて、ずっと遊んでいたいんだ」
ウェンディは窓辺に立ち、静かに言いました。
「春の大掃除のとき、迎えに来てくれる? お話の続きを聞かせてあげるから」
ピーターは頷きました。そして夜空に消えていきました。
最初の春、ピーターは約束どおり来ました。
次の春も来ました。
その次の春は、来ませんでした。
ピーターにとって、一年という時間は水のように流れ、記憶は砂のように零れ落ちてゆくのです。フック船長のことすら、もう覚えていませんでした。「フックって誰?」と真顔で聞くピーターに、ウェンディは何も言えませんでした。
年月が過ぎました。
ウェンディは大人になりました。髪を上げ、長いスカートを穿き、やがて結婚し、ジェインという娘が生まれました。
ある春の夜、子ども部屋の窓が開き、あの少年が入ってきました。
何も変わっていません。乳歯の笑顔も、木の葉の服も。
「さあウェンディ、春の大掃除の時間だよ!」
ウェンディは暖炉のそばに立っていました。電灯に照らされたその姿を見て、ピーターは後ずさりしました。
「どうしたの、ピーター」
「おまえ……大きくなった。約束したじゃないか。大きくならないって」
「そんな約束はしていないわ。わたしにはできなかったの。わたしは——ただの女の子だったから」
ピーターが泣き出しました。あの夜、影を縫いつけてもらったときと同じように。
そこへ、小さなジェインが寝台から顔を出しました。
「あなた、ピーター・パンでしょう? おかあさんから聞いてるわ」
ピーターはジェインを見ました。涙はもう乾いていました。さっきまで泣いていたことすら、忘れたようでした。
「きみ、飛べる?」
ジェインはピーターと一緒にネバーランドへ飛んでいきました。
ウェンディは窓辺に立って見送りました。かつて母がそうしたように。
やがてジェインも大人になり、マーガレットという娘が生まれます。マーガレットもまた、ある春の夜にピーターと飛び立つでしょう。そしてマーガレットの娘も。そのまた娘も。
子どもたちが無邪気で、朗らかで、薄情でいるかぎり——
この物語は終わりません。
おしまい
——物語の奥にあるもの
バリーは五人のルウェリン・デイヴィス兄弟との交流からこの物語を生みました。兄弟は幼くして父を亡くし、やがて母も失います。ピーター・パンとは「大人にならなくてよい子ども」であると同時に「喪失を知らずに済む子ども」であり、バリー自身が兄の早逝に苦しんだ記憶の残響でもあります。
チクタクと時を刻む鰐は、死そのものの寓意です。フックが恐れているのはピーターではなく時間であり、やがて時計が止まったとき——つまり死が音もなく忍び寄るとき——彼は逃げられません。「死ぬのはとびきりの大冒険だろう」という有名な台詞は、少年の無邪気さであると同時に、大人が読むとぞっとするほど暗い響きを持ちます。
ウェンディは「母」の役割を与えられ、冒険者にはなれません。エドワード朝の性別規範がそこにあります。しかし物語の中で唯一「成長する」のはウェンディだけです。ピーターは永遠に同じ少年であり、フックは永遠に同じ恐怖に囚われている。変化できること——老いること——が、実は最も勇敢な冒険なのだと、バリーは逆説的に語っています。
最も残酷なのは結末です。ピーターはウェンディを忘れます。永遠の少年には持続する記憶がなく、だから持続する愛情もありません。開け放たれた窓は母の愛の象徴ですが、ピーターはその意味を理解できない。子どもたちが「無邪気で、朗らかで、薄情」でいるかぎり物語は続く——バリーがこの三語を並べたとき、無邪気さと薄情さが同じものの表と裏であることを、彼は知っていました。