ロミオとジュリエットの表紙

ロミオとジュリエット

ウィリアム・シェイクスピア

北イタリア、ヴェローナ。

陽に焼けた石畳の街路を、二つの名家が支配していました。モンタギュー家とキャピュレット家——どちらも由緒正しく、どちらも裕福で、そしてどちらも、相手を滅ぼすまで憎むことをやめられない。

諍いの発端を覚えている者はもういません。ただ、父が息子に憎しみを教え、息子がまたその子に引き継ぐ。そうして何世代ものあいだ、ヴェローナの広場には血が流れ続けてきたのです。

その日も、両家の下僕たちが市場で刃を交えました。売り台が倒れ、果物が石畳に散乱し、市民が悲鳴を上げて逃げまどう中——大公エスカラスが兵を率いて現れました。

「次にこの街の平穏を乱す者は、命をもって償え」

大公の声が広場に木霊しました。けれど、両家の男たちの目に浮かんでいたのは畏怖ではなく——まだ足りない、という渇きでした。

モンタギュー家のひとり息子、ロミオは憂鬱に沈んでいました。

ロザラインという娘に恋をしていたのですが、相手はまるで振り向いてくれない。友人のマキューシオは、そんなロミオをからかいました。

「おい、世界が終わったような顔をするな。恋なんてものは月と同じだ——満ちては欠け、欠けてはまた満ちる」

マキューシオはモンタギューでもキャピュレットでもなく、大公の親戚にあたる自由な男でした。どちらの家にも属さず、どちらの諍いも馬鹿げていると笑い飛ばす——街でただひとり、中立を生きている人間です。

「今夜キャピュレット家で仮面舞踏会がある。忍び込んでロザラインを見てこい。近くで見りゃ、たいした女じゃないとわかるさ」

{蝋燭|ろうそく}が輝くキャピュレット家の大広間で、仮面越しにジュリエットを見つめるロミオ

仮面をつけ、モンタギューの若者たちはキャピュレット家の大広間に紛れ込みました。

蝋燭ろうそくが百本、燭台しょくだいの腕に揺れていました。絹の衣が回り、笑い声が天井に反射し、楽士たちの奏でるガリヤルドが石壁を震わせている。

ロミオは群衆の隙間から広間を見渡しました。

そして——息が止まりました。

向かい側に、ひとりの少女が立っていたのです。金糸の髪飾りが燭光に光り、白いほおが薄紅色に染まり、目は暗い宝石のように深い。

ロミオはつぶやきました。

「あの人は誰だ。——松明にこんな輝き方を教えたのは、あの人だ」

ロザラインのことは、もう影も残っていませんでした。

ふたりは踊りの輪の中で出会いました。

指先が触れ、視線が交わり、言葉が——祈りのように紡がれました。

ロミオはひざまずくようにジュリエットの手を取りました。

「もしこの手で聖なるものを汚したなら、唇という巡礼が——接吻でその罪を清めましょう」

「巡礼さま、あなたの手はちっとも罪深くなんかありません。手と手を合わせるのは、巡礼の接吻ですもの」

そうして唇が触れたとき、蝋燭ろうそくの炎がいっせいに揺れたのだと——後に乳母は語りました。

踊りが終わり、ジュリエットが去り際に乳母に尋ねました。

「あの方は誰?」

乳母は眉をひそめました。

「モンタギュー家のひとり息子、ロミオですよ」

ジュリエットの顔から血の気が引きました。

「憎い敵の家のただひとりの息子——。知るのが遅すぎた」

月明かりの下、バルコニーのジュリエットを見上げるロミオ

舞踏会の帰り道、ロミオは友人たちの声を振り切って引き返しました。

月がキャピュレット家の果樹園を銀色に染めていました。壁を乗り越え、木々の影に身を隠したとき——二階のバルコニーに灯りが点り、ジュリエットが姿を現しました。

ロミオは息を呑みました。

「あれは東の空だ。ジュリエットは太陽だ」

ジュリエットは欄干に手を置き、夜空に向かって嘆きました。

「ああ、ロミオ、ロミオ——どうしてあなたはロミオなの。その名を捨てて。名前があなたのすべてじゃないでしょう。薔薇ばらを別の名で呼んでも、同じように甘く香るのだから」

ロミオは闇の中から声を上げました。

「おまえの言葉に従おう。ロミオという名を捨てる。もう僕はロミオではない。おまえがそう望むなら」

「誰——!」

「名を言えない。自分の名が憎い。その名がおまえの敵だから」

ジュリエットは闇に目を凝らし、そして——声を知りました。

「どうやって来たの。壁は高いし、見つかったら殺されるわ」

「愛の翼が壁を飛び越えさせた。石の壁が愛を遮ることはできない」

ジュリエットは微笑みました。それから——真剣な顔になりました。

「明日、本気なら——結婚の使いをよこして。場所と時間を知らせてくれたら、私のすべてをあなたの足もとに置く。あなたについて、世界のどこまでもゆきます」

月が雲に隠れ、また現れました。それが日曜の夜のことでした。

月曜の朝、ロミオは修道士ロレンスのもとへ駆け込みました。

ロレンス神父は薬草に通じた老人で、ロミオの懺悔を聞く告解師でもありました。

「神父さま、ジュリエット・キャピュレットと結婚させてください」

「——昨日まではロザラインだったはずだが」

「あれは恋ではなかった。今度は——」

「若い者はいつもそう言う」

ロレンス神父は溜息をつきました。けれど、ひとつの算段が頭をよぎりました。

もしこの結婚が成れば——モンタギューとキャピュレットが血の絆で結ばれれば——長年の諍いに終止符を打てるかもしれない。

理性と善意が、ひとりの老人を動かしました。

「よかろう。だが急ぐのだ。ゆっくり行く者は躓かない——速すぎる者は、遅すぎる者と同じところに倒れる」

その日の午後、ふたりは修道院の小さな聖堂で密かに夫婦の誓いを交わしました。

結婚のわずか数時間後のことでした。

火曜の午後、ヴェローナの広場に真夏の陽が照りつけていました。マキューシオとベンヴォーリオが歩いていると、キャピュレット家のティボルトが仲間を連れて現れました。

ティボルトはジュリエットの従兄で、剣の腕は街一番——そして癇癪も街一番の男です。昨夜の舞踏会でロミオを見咎めたことを、まだ赦していませんでした。

「ロミオ、卑おび者め。剣を抜け」

ちょうどそこへロミオが通りかかりました。けれどロミオは——数時間前にジュリエットの夫になったばかりです。ティボルトはもう親戚でした。

「ティボルト、僕はおまえを愛している。まだ理由は言えないが、キャピュレットの名は僕自身の名と同じくらい大切なんだ」

ティボルトには意味がわかりません。ロミオの態度は臆病にしか見えませんでした。

マキューシオが剣を抜きました。

「おまえがおびむなら、俺が相手をしてやる。ティボルト、猫の王め、九つの命のうち一つをもらってやろう」

刃が閃き、火花が散り——ロミオが間に入って止めようとした瞬間、ティボルトの剣がロミオの腕の下を潜りました。

マキューシオの脇腹に、刃が深く突き立てられていました。

ティボルトは群衆に紛れて逃げました。マキューシオは石壁にもたれ、血が石畳に広がってゆくのを見下ろしました。

「傷を見せろ」とベンヴォーリオが叫びました。

マキューシオはまだ冗談を言おうとしました。

「明日にはこの世にいないぞ——」

そして、最後の力を振り絞るように言いました。

「両家ともに呪われろ! モンタギューも、キャピュレットも——おまえたちが、俺を殺したんだ」

マキューシオが息を引き取ったとき、ロミオの中で何かが切れました。

「おまえの魂が俺たちの頭上のどこかにあるなら——」

ティボルトが戻ってきました。ロミオは剣を抜きました。

今度は止める者はいませんでした。二本の刃が噛み合い、ぶつかり、引き裂くように薙いだロミオの一撃が——ティボルトの胸を貫きました。

ティボルトは石畳に崩れ落ち、動かなくなりました。

街が凍りつきました。

ベンヴォーリオがロミオの腕をつかみました。

「逃げろ、ロミオ! 大公が来る。おまえは死刑だ!」

ロミオは血に染まった剣を見つめ、つぶやきました。

「僕は——運命の道化だ」

大公エスカラスの裁きは、死刑ではなく追放でした。ヴェローナから永久に——。けれどロミオにとって、ジュリエットのいない世界は死と同じでした。

火曜の夜、ロミオはロレンス神父の修道院に身を隠し、そこからジュリエットのもとへ向かいました。

最初で最後の、夫婦としての夜でした。

窓の外で雲雀が鳴きました。ジュリエットは言いました。

「あれは雲雀じゃない。夜鳴鶯よ。まだ夜なの」

「あれは雲雀だ。東の雲に朝の筋が見える。行かなければ——捕まれば、死ぬ」

「行って。……でも——すぐ戻ると言って」

「一瞬一瞬が永遠の幸いを運んでくる。ジュリエット、さようなら。この接吻を最後に——」

ロミオは窓から庭へ降り、振り返りました。

バルコニーのジュリエットが蒼白に見えました。

「あなたが——墓穴の底にいる人のように見える」

「おまえもだ。——目が哀しみに曇っているせいだろう」

そして水曜日の朝が来て、ロミオはヴェローナを去りました。

ロミオが去った水曜の朝、キャピュレット卿はジュリエットの部屋に入ってきました。

「ティボルトの死を嘆くおまえのために、良い縁談を整えた。パリス伯爵と、木曜日に結婚しなさい」

ジュリエットは凍りつきました。

「お父さま、お願いです。まだ早すぎます——」

「拒むなら、この家から出て行け。二度とわしの娘を名乗るな」

母も味方にはなりませんでした。乳母さえも、こうささやいたのです。

「パリス伯爵はいい方ですよ。ロミオは追放された身。いないも同然。いっそ——」

ジュリエットは微笑みました。氷のような微笑みでした。

「わかったわ、乳母。慰めてくれてありがとう」

そして心の中で、乳母を見限りました。十三年間育ててくれた人を——たったいま、失ったのです。

ジュリエットはロレンス神父のもとへ走りました。

「助けてください。さもなければ——このナイフで今ここで死にます」

ロレンス神父の手が震えました。この結婚を仕組んだのは自分です。善意が、取り返しのつかない場所まで転がり始めていました。

「待ちなさい。ひとつだけ方法がある」

神父は棚から小さな小瓶を取り出しました。中には薄緑の液体が入っていました。

「これを飲めば、四十二時間——脈も止まり、体も冷たくなり、死んだようになる。家族はおまえを納骨堂に安置するだろう。目が覚めたとき、ロミオが迎えに来ている。ふたりでマントヴァへ逃げるのだ」

「ロミオには——」

「手紙を送る。必ず届ける」

ジュリエットは小瓶を握りしめました。迷いはありませんでした。十三歳の少女は、恐怖よりも愛を選びました。

水曜日の夜、ジュリエットはひとり寝室で小瓶を見つめていました。

恐怖が波のように押し寄せました。

もし薬が効かなかったら? もし本当に死んでしまったら? もし納骨堂で早く目覚めて、先祖の骸骨の中で正気を失ったら? ティボルトの亡骸がすぐそばに横たわっている——あの暗闇の中で、ひとりきりで——

手が震えました。けれど、心に浮かんだのはロミオの顔でした。

「ロミオ、ロミオ。これを飲むわ。あなたのために」

ジュリエットは小瓶を傾け、一息に飲み干しました。

褥の上に倒れたとき、その手はまだ小瓶を握りしめていました。

木曜の朝、キャピュレット家に絶叫が響きました。

乳母がジュリエットを起こしに行き——冷たく動かない体を見つけたのです。

結婚式の花は葬式の花に変わりました。婚礼の音楽は弔いの鐘に変わりました。ジュリエットの体は白い衣のまま、キャピュレット家の納骨堂に運ばれました。

ロレンス神父の手紙は、マントヴァのロミオに届くはずでした。

届きませんでした。

疫病のために街が封鎖され、使いの修道士は足止めを食ったのです。

その代わり、ロミオのもとに届いたのは——従者バルサザーの言葉でした。

「お嬢さまは——亡くなりました。キャピュレット家の墓に安置されました」

ロミオは一言も発しませんでした。それからゆっくりと言いました。

「ならば——星よ、覚悟しろ。今夜、ジュリエットのそばで眠る」

ロミオはマントヴァの薬屋を訪ねました。

痩せこけた男が暗い店の奥にいました。ロミオは金貨を差し出しました。

「即効性の毒を。飲んだら一息で死ねるものを」

「そんなものを売れば死刑です」

「おまえの貧しさのほうが、法律より重い罰だろう」

薬屋は金貨を見つめ、震える手で小さな小瓶を渡しました。

「二十人殺せる量です。一滴でも——」

ロミオは小瓶を懐にしまい、馬を駆ってヴェローナへ戻りました。

木曜日の夜が更けてゆきました。

薄暗い納骨堂の中、石の台に横たわるジュリエットのそばに{跪|ひざまず}くロミオ

納骨堂の前に、先客がいました。パリス伯爵が、花を手にたたずんでいたのです。婚約者の墓に——花を手向けに来ていたのです。

ロミオが松明を手に現れたとき、パリスは墓荒らしだと思い、剣を抜きました。ロミオは止めようとしました。

「頼む、行ってくれ。僕にこれ以上罪を重ねさせないでくれ」

パリスは引きませんでした。刃が交わり——パリスが倒れました。

ロミオは息絶えたパリスの顔を見て、はじめて気づきました。

「マキューシオの親戚の——パリス伯爵か。彼も不幸の道連れだ」

ロミオはパリスの体を納骨堂の中に横たえ、そして——ジュリエットを見ました。

ジュリエットは石の台座の上に横たわっていました。

白い衣のまま、ほおにはまだ——薄い赤みが残っていました。

ロミオはその傍らにひざまずきました。

「死よ、おまえの蜜はまだこの唇から吸い尽くされていない。——ジュリエット、おまえはなぜこんなに美しいんだ。まるで——まるで、まだ生きているかのように」

その通りでした。ジュリエットは生きていました。薬が切れようとしていたのです。あと数分——あとほんの数分待てば、瞼が動いたはずでした。

けれどロミオは知りませんでした。

「ジュリエット、おまえのそばで——最後に」

ロミオは小瓶を唇にあてました。

「正直な薬屋だった。——速い」

ジュリエットの傍らに崩れ落ち、ロミオは動かなくなりました。

ジュリエットの目が開きました。

石の天井。蝋燭ろうそくの匂い。納骨堂の冷たい空気。

——約束どおりだ。目が覚めた。ロミオは?

首を巡らせたとき——すぐ隣に、動かない体がありました。

唇が青ざめ、まだ毒の小瓶を握っていました。

「毒。——ああ、ぜんぶ飲んでしまったのね。私の分を一滴も残してくれなかった」

ジュリエットはロミオの冷たい唇に口づけしました。唇に毒の味が残っていないかと——。

外で物音が聞こえました。ロレンス神父が駆けつけてきたのです。

「ジュリエット、来なさい。ここにいてはいけない——」

ジュリエットは動きませんでした。

ロミオの腰から短剣を引き抜きました。

「ああ——嬉しい短剣。ここがあなたの鞘よ」

刃が胸に沈み、ジュリエットはロミオの上に倒れました。

納骨堂の前で手を取り合うモンタギュー卿とキャピュレット卿、背景に朝焼け

夜が明けました。

納骨堂に集まったのは、大公エスカラス、モンタギュー卿、キャピュレット卿、そしてロレンス神父でした。

三つの亡骸——パリス、ロミオ、ジュリエット。石の床に広がった血は、もう乾きかけていました。

ロレンス神父が、震える声ですべてを語りました。密かな結婚、薬、届かなかった手紙。善意で始めた計画が、どこで歯車を狂わせたのか——。

キャピュレット卿は、娘の動かない手を見つめていました。

モンタギュー卿は、息子の蒼白な顔を見つめていました。

二人の父親は、長い沈黙のあと——互いに手を差し伸べました。

「モンタギュー卿、あなたの息子のために、黄金の像を建てよう。純金のジュリエットの像を」

「キャピュレット卿、ロミオの像もそのそばに。二人を——もう引き離すまい」

大公エスカラスは静かに言いました。

「この朝ほど陰鬱な朝をもたらしたものはない。太陽も悲しみに顔を隠している。——行こう。語るべきことはまだある。赦される者もいれば、罰せられる者もいる。

だがこれだけは確かだ——

ジュリエットとそのロミオほど、哀れな物語はかつてなかった」

鐘が鳴りました。

ヴェローナの朝に、ゆっくりと、何度も。

諍いはその日、終わりました。子どもたちの血という、あまりにも高い代償と引き換えに。

日曜日に始まり、木曜日に終わった——わずか五日間の物語でした。

おしまい

——物語の奥にあるもの

この物語は日曜の夕方に始まり、木曜の明け方に終わります。たった五日間。出会いから死まで、すべてが圧縮されている。シェイクスピアは意図的にこの速度を選びました。恋も暴力も判断も、考える隙を与えられないまま転がり落ちてゆく——それが若さの本質だと言わんばかりに。

序幕のコーラスは最初に結末を告げます。「星に見放された恋人たちが命を絶つ」と。懸念を排し、観客の目を「何が起きるか」ではなく「なぜ止められなかったのか」に向けさせる——劇的皮肉の装置です。

マキューシオの辞世「両家ともに呪われろ」は、この戯曲の道徳的中心です。どちらの家にも属さない男が、両家の争いに巻き込まれて死ぬ。中立であることすら許されない社会の暴力を、瀕死の冗談好きが告発している。

ジュリエットは十三歳、ロミオの年齢は記されていません。シェイクスピアは若さの無謀を讃えたのではなく、描写したのです。衝動を愛と呼び、五日で永遠を誓い、死を解決策に選ぶ——その痛ましさこそが主題です。

ロレンス神父の計画は、理性と穏健さの象徴でした。諍いを結婚で解消し、薬で時間を稼ぎ、手紙で連携する。すべて合理的で、すべて失敗した。極端な世界では中庸が通用しない——善意が惨劇を生むのです。

そして結末。両家の和解は感動的ではありません。子どもの屍を前にして初めて握手する父親たち——それは「愛の勝利」ではなく、政治的な決着です。失ったものの重さでしか人は変われなかった。黄金の像を建てても、子どもは戻らない。シェイクスピアが書いたのは悲恋ではなく、大人たちの失敗の物語なのです。